経済学入門(3) 比較優位と交易の利益

交易の利益はどうして生まれるのでしょうか?デビット・リカードという経済学者は,比較優位という考え方を用いて国際貿易の利益を説明しています。

いま,甲国と乙国の二国があり,それぞれ自動車と小麦を生産している状況を考えましょう。甲国は一年間に小麦だけを生産すれば800トンを生産することができるとします。そして,自動車を1台生産するためには小麦の生産を1トン減らさなければいけないとします。この甲国の状況を図に表すと以下のようになります。

frontier

たとえば,自動車の生産がゼロであれば,小麦は800トン生産できます(点Y)。自動車を800台生産すれば小麦は生産できません(点X)。自動車を400台生産しようとすれば,生産できる小麦は400トンです(点A)。決められた自動車の台数を生産したとき,小麦を最大で何トン生産できるかを表した点の軌跡を生産可能性フロンティアといいます。この場合,A国の生産可能性フロンティアはY点とX点を結ぶ直線ということになります。

生産可能性フロンティア上の点は,決められた自動車の台数を生産したとき,小麦を最大で何トン生産できるかを表していました。すると,C点のように生産可能性フロンティアの外側にある生産計画(自動車の台数と小麦の重量)は実現不可能です。一方で,B点のように生産可能性フロンティアの内側にある生産計画は実現可能ですが,このような生産計画では自動車の生産を減らさずに小麦の生産を増やすことができますし,小麦の生産を減らさずに自動車の生産を増やすことができます。つまり,B点のような生産計画では資源を余らせてしまっているということになります。

A点やE点ではどうでしょうか?この二点は生産可能性フロンティア上にあり,どちらか一方の生産を増やすためには必ずもう一方の生産を減らさなければいけません。つまり,A点やE点のような生産計画は資源を無駄なくすべて使い切っているということになります。このような生産計画のことを効率的であるといいます。生産可能性フロンティア上の点は,A点とE点に限らずすべて効率的です。無数にある効率的な生産計画の中から実際にどれを選んで生産および消費を行うのかということは,好みの問題ということになりますが,いま甲国はA点を選んでいると仮定しましょう。

続いて乙国について考えましょう。乙国では一年間に小麦だけを生産すれば700トンを生産できるとします。また,自動車を1台生産するためには小麦の生産量を2トン減らさなければいけないとします。あなたは,練習問題としてこの乙国の生産可能性フロンティアを描いてみてください。

ここで,甲国と乙国がそれぞれ自動車もしくは小麦の生産に特化して交易を行うとどうなるでしょうか。甲国が自動車の生産に特化すれば,生産量は800台です。一方,乙国は小麦の生産に特化すれば,生産量は700トンです。そして,甲国の自動車350台と乙国の小麦450トンが交換されるとしましょう。すると,甲国は自動車450台と小麦450トンを消費することができます。一方乙国は,自動車350台と小麦250トンを消費することができます。

さて,交易が行われた場合の乙国の消費はC点ということになります。このC点は,甲国が単独で小麦と自動車の両方を生産していたときは実現できなかった生産計画です。それが,特化と交易を行うことで実現可能になったわけです。このとき,乙国も同様に生産可能性フロンティアの外側の点で消費を行うことができるようになっていることに注意してください。

一方の国が自動車の生産に優れており,もう一方の国が小麦の生産に優れているような場合だと,お互いが得意な財の生産に特化して交易を行えばより効率的だということはすぐに理解できると思います。しかし,このケースでは甲国は自動車を生産しても小麦を生産しても乙国よりも多く生産することができます。このような状況を,甲国が自動車と小麦の両方に絶対優位を持つといいます。そして,重要なことは,一方の国が両方の財の生産に絶対優位を持っているような状況でも両方の国に交易の利益は生まれるということです。

甲国が小麦に,乙国が自動車に特化するとどうなるでしょうか?この場合にも交易の利益は生まれるでしょうか?答えはノーです。それぞれの国がどちらの財の生産に特化したとしても交易の利益が生まれるというわけではありません。それでは,それぞれの国がどちらの財に特化すればよいのでしょうか。甲国は自動車を1台生産するためには小麦を1トンあきらめなければいけません。このとき,甲国にとって自動車1台の機会費用が小麦1トンであるといいます。同様に,乙国にとって自動車1台の機会費用は小麦2トンです。すると,小麦で測った自動車1台の機会費用は乙国よりも甲国の方が低いということになります。このような状況を甲国が自動車に比較優位を持つといいます。一方,自動車で測った小麦の機会費用は,小麦で測った自動車の機会費用の逆数となります。したがって,小麦の生産に関しては乙国に比較優位があるということになります。そして,各国が比較優位を持つ財の生産に特化することで交易の利益が生まれるのです。

甲国 乙国
小麦 自動車1台 自動車0.5台
自動車 小麦1トン 小麦2トン

各国の機会費用を表にすると上のようになります。小麦の生産には乙国が,自動車の生産には甲国が比較優位をもっていることが確認できます。

実は,それぞれの国が比較優位を持つ財に特化することで,交易の利益が生まれます。そして,どちらか一方の国が二つの財の両方に比較優位を持つということはありません。すなわち,両国の機会費用がまったく同じである場合を除けば,必ず交易の利益が生まれるということになります。

ここでは,二国間の貿易の話を考えましたが,比較優位の考え方が有効なのは貿易に限ったことではありません。たとえば,夫婦間の分担を考えてみましょう。妻は掃除,炊事それぞれ30分で終わらせることができるとします。一方,夫は掃除には45分,炊事には1時間かかるとします。すなわち,絶対優位は,掃除と筋の両方について妻がもっています。一方,比較優位は,掃除は夫が,炊事は妻がもっています。そのため,妻は炊事を行い,夫に掃除を任せるのが効率的です。もし,夫が掃除,妻が炊事を行えば,二人の作業は45分間で終わります(妻は30分で炊事を終え,夫が掃除を終えるまで15分間待つとします)。一方,夫が炊事を行えば,1時間かかってしまいます(妻が30分で掃除を終え,夫が掃除を終えるまで30分待つことになります)。妻は掃除と炊事の両方を行っても,あわせて1時間で終えることができるため,夫に炊事を任せても利益はもたらされません。

 

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