大学教育の収益率は高いのか,低いのか?

教育投資は,個人にとっても社会にとっても重要な投資です。学校教育によって知識や技術を身につければ労働者の生産性が上昇し,高い賃金を獲得することができるようになります。また,労働者の生産性が上昇すれば国の経済も発展します。その一方で,教育投資は費用をともないます。とくに大学は授業料も高額ですし,大学に通う人はすでに働くことができる年齢ですから,大学に通っている間は放棄しなければならない収入(経済学の用語では機会費用といいます)も大きくなります。

「便益もあるけど費用もかかる」というのは,どのような投資でも同じです。教育投資だけではなく,さまざまな投資機会のなかからもっとも高い収益をもたらすものを見極めて,そこに資源を投入しなければなりません。現在日本の大学進学率は60%近くまで上昇しており,全国にはおよそ800校の大学があります。大学には多額の公金が投じられているため,その費用に見合った便益を得られているのかどうかということは,非常に重要な問題です。

一部では,大学の数が増えすぎたため,大学で勉強するのに十分な学力を備えていない人が入学して公金が無駄になっているとか,大学教育の質が低下しているといった主張も聞かれるようになってきました。実際,大学を卒業しても必ず良い仕事に就けるとは限らず,在学中に借りた奨学金を返せない人たちが一定数いるということは,大学教育から十分な収益が得られない場合があることを示唆しているといえるでしょう。

一方で,ほかの先進国と比較して日本の大学進学率はむしろ低い方であり,GDPに占める教育支出の割合も最低レベルです。したがって,もし日本において大学や大学生の数が多すぎるというのであれば,ほかの先進国も軒並み大学に対する投資が過剰であるか,日本ではほかの先進国に比べて必要とされている教育水準が低いかのどちらかということになりますが,どちらも正しいとは思えません。

私はこれまで学校教育の収益率の計測について研究してきましたが,多くのことがわかっているようでコンセンサスは得られていないというのが正直な印象です。とくに,個人の視点から見た教育の収益率を計測する研究は多く蓄積されているのに対して,教育が社会全体にもたらす収益を計測することは非常に難しく,これだけ投資すればこれだけの便益を得られるという明確な数字を示すことは不可能です。

ここでは,不定期ですが,データを見ながらできるだけ客観的に日本の大学教育の現状を考えていきたいと思います。

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