善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学


善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

ランダム化比較実験(RCT)という方法を用いて,マイクロ・ファイナンスの有効性や課題について解説した本です。

マイクロ・ファイナンスというのは,発展途上国で人々に少額の融資を行い,自立的な経済活動を支援しようとする金融制度です。バングラデシュのグラミン銀行というのはマイクロ・ファイナンスの一例で,その創始者のユヌスという人は2006年にノーベル平和賞を授与されました。

マイクロ・ファイナンスは慈善事業ではなく,借りたお金は返さなければいけませんし,利息も付きます。そのため,どのような制度設計にすればお金を借りた人が融資を有効利用してきっちり返済できるのかを検証することが重要です。

この本で用いられている検証の方法は,ランダム化比較実験というものです。ランダム化比較実験というのは,政策評価の実証研究でよく用いられる方法です。たとえば,貧乏な人にお金を貸すという政策が本当にその人のためになるのか,つまりお金を借すことでその人が成功する確率が上がるのかということを検証したいとしましょう。

単純に考えれば,お金を借りた人と借りなかった人の数年後の状態を比べてやればよいでしょう。お金を借りた人(Aさん)が成功しており,借りなかった人(Bさん)が成功していなければ,お金を借りることが成功を導いたということになります。しかし,ここで問題になるのは,Bさんは自ら望んでお金を借りなかったのではなく,信用がないためにお金を借りることができなかったかもしれないということです。もしそうだとすれば,Aさんには信用があり,成功する可能性が高かったためお金を借りることができたということになり,数年後にAさんがBさんよりも成功していても,それがお金を借りたことによるものかどうかはわかりません。Aさんはお金を借りていなくてもやはり成功していたという可能性を否定できないでしょう。

この場合の問題点は,お金を借りた人(処置群)とお金を借りなかった人(対照群)がランダムに割り当てられているわけではないということです。このように,比較すべきグループがランダムに割り当てられていない状況での政策評価は,経済学の実証研究で非常に重要なテーマとなっています。

この本の中でやられていることのひとつは,同じような信用力の人をくじ引きで二つのグループに分け,一方のグループにはお金を貸し,もう一方のグループにはお金を貸さずに,彼らのその後の状態を観察して比較するというランダム化比較実験です。

通常,お金を借りる際には信用情報を用いた審査があります。この審査により,お金を借りたい人は,「貸出Okの人」,「貸出NGの人」(いわゆるブラック・リストに載っている人),そしてさらなる調査が必要な「グレーの人」の3つに分類されます。もちろん,「貸出Okの人」には貸し出しが行われ,「貸出NGの人」には貸し出しが行われませんが,この二つのグループはランダムに割り当てられているわけではないので,彼らのその後の状況を比較してもお金を貸すことの効果はわかりません。

ランダム化比較実験で利用するのは「グレーの人」たちです。「グレーの人」たちの信用力というのは,「貸出Okの人」と「貸出NGの人」の間にあるので,基本的にみんな同じようなものです。そこで,さらなる調査をする代わりに,くじを引いて当たりが出た人にはお金を貸し,はずれだった人には貸さないという実験を行います。すると,お金を借りることができる人とできない人は,信用力に関係なくランダムに割り当てられるため,お金を借りることで成功する確率が上がるのかどうかを検証することができるのです。

もちろん,いま紹介したのはこの本で取り上げられているランダム化比較実験の一例です。詳細を知りたい方は,ぜひこの本を読んでみてください。

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