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自業自得という偏見

Facebookでいろんな人が「いいね」って言ってるBlogを読んだり,学生たちのレポートの内容を見たりしていると,ちょっと悲しい気持ちになることがあります。

たとえば,人工透析が必要な腎不全患者の方々に対して,かつてテレビ局に所属していたアナウンサーだった方が,「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」とBlogに書いていますが,そうした主張に対して「よくぞ言った!」的な賞賛のコメントが多く書き込まれているのに驚かされます。生活保護制度について説明せよという問いに対して,「自力で生活費を稼げないやつは野垂れ死ねばいい」みたいなことを書いてくる学生が一定程度いるのですが,ネット上のこうした記事に影響を受けているのかもしれません。一方ではそうした主張にまったく根拠がないわけではない場合があることも認めるのですが,もう一方でそうした主張が問題の本質を捉えているとはまったく思いませんし,ましてやそれを公の場で喧伝することには好感を覚えません。

学者だけではなく多くの良識ある大人は,いちいちこうした議論に参加したり過激な発言をする人をたしなめたりはしないものなんだと思います。しかし,一定数以上の現代の若者が,こうしたネット上での一方的な主張を反論の余地のない真実のように捉えているかもしれないということや,過激な主張が若者を煽動するために利用される可能性があることには憂慮する必要がある気がしています。

保険や社会保障の制度には,モラル・ハザードとアドバース・セレクションという問題がつきまといます。病気になっても保険で治療費が支払われるならば,保険加入者は普段の体調管理を怠ってしまうというのがモラル・ハザードです。また,保険料金が一律であれば,病気になる危険度の高い人ほど保険に加入しようとする一方で,病気になる危険度の低い人は保険には加入しなくなってしまうというのがアドバース・セレクションです。いずれの問題も,被保険者が病気になってしまう確率が,保険者にはわからないという情報の非対称性に起因します。

問題の本質は情報の非対称性にあるわけですから,それを無視した議論はナンセンスです。たとえば,普段から健康管理に気をつけている人の保険料を安くし,そうではない人からは高い保険料を徴収するというのは不可能です。保険加入者の普段の生活を完全に監視することはできないからです。同様に,遺伝など不可避な理由で病気にかかってしまった場合と後天的な生活習慣が原因で病気になった場合とを区別して保険金の支払いを変えるというのも不可能です。国民全員の遺伝子情報を登録すればできるんじゃないかと言う人もいるかもしれませんが,まだ知られていない遺伝疾患が存在する可能性もあるし,プライバシー保護という観点からも現実的ではありません。すなわち,自業自得の場合には治療費は自己負担というのは,実現不可能な制度です。

情報の非対称性によるモラル・ハザードやアドバース・セレクションの問題は,経済学者でなくてもだれでも経験的に知っていることだと思います。また,実際に保険や社会保障制度にそうした問題があるということも多くの人が認識しています。しかし,だれが遺伝的な原因で病気になったのであり,だれが自暴自棄な生活習慣が原因で病気になったのかということが見た目にはわからない以上,病気になった人の多くが自業自得だという主張を喧伝することは患者に対する偏見や差別につながります。結果として,不運にも高額な治療費が必要な病気にかかってしまった患者が非難を受けたり,延いてはそうした病気になってしまったときに保障が受けられないのではないかという社会不安を招いたりするかもしれません。これは,アメリカで中東系の人はテロリスト,ラテン系の人は不法移民というような偏見や差別が社会不安を引き起こし,それを利用して国民を煽動しようとするトランプ氏のような人間が現れるという状況とよく似ています。中東系の移民を排斥するということがテロ問題に対する根本的な解決にならないのと同様に(なると思っている人がいるという事実が問題のようですが),自業自得の病気は自己負担という考えは根本的な解決にはならないと思います。

医療費を削減するために有効なのは,予防医学だといわれています。健康診断や人間ドックなどにかかる費用は,病気になってから治療を行うための費用よりも安いのですが,人々は多くの場合自分が病気になるリスクを過小に見積もっていたり,健康診断を先延ばしにしてしまったりするものです。私は,自業自得で病気になった人に保険金を支払わなくていいような制度よりも,より多くの人が必要な健康診断を受診できるようにしたり,生活習慣についての指導を受けられるようにしうたりするための制度の方が有意義だと思っています。また,こうした問題に対して,近年注目されている行動経済学が重要な示唆を与えてくれるのではないかと期待しています。

StataにSPSS(.sav)データをインポートする

経済学の分野ではStataを使っている人が多いと思うのですが,社会学などの分野ではSPSSの方がメジャーなようで,利用したいデータがSPSS形式でしか提供されていないことがよくあります。StatTransferというソフトを用いれば,簡単にSPSS形式のデータをStata形式に変換できるのですが,実はお金をかけなくてもSPSS形式のデータをStataに読み込む方法はいくつかあります。 続きを読む